surgのブログ

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多施設共同研究の倫理審査を1ヶ所でやろう!というお話

NIH policy on Single-IRB Review -A new era in multicenter studies

昨年末に出ていた記事(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5234329/)から。

国内で多施設共同研究に関わっていると、ついてまわるのが、倫理審査の問題である。当然、研究計画書を提出し、倫理委員会(IRB)に承認を得るのは必要だ。それについては異論はないし、それは今回の論点ではない。現状として、多施設研究ではまず主研究施設が研究計画書を(共同研究者らともに)作成する。そして、主研究施設において、IRBの審査を受けて承認されて初めて研究が動き始める。次にその研究計画書を以て、各施設は各施設ごとのIRB審査を受けることになる。各施設の承認がおりる頃には、主研究施設の倫理審査通過からすでに数カ月が経っているなんてこともある。

一言で多施設研究と言っても、その参加施設数は様々だ。3施設程度ならすべてのIRBで審査を受けてもさほど問題にはならないが、これが50施設を超えるような試験となると、全てのIRBから審査を受けることに多大な労力が費やされる。介入を伴う試験や侵襲を伴う観察研究ならば、まあ各施設の方針でいろいろ調整も必要だから仕方ないのかもしれないが(介入試験やったことないしわかりません)。問題なのは、多くの施設から情報提供を受け、それをまとめるような研究だ。介入はなく、侵襲もない。これをすべてのIRBで行っていると(実際行っているが)それに関わる人たちの労力、つまりリソースを無駄に消費していることにもなるのではないかと(ちょっと)思っていた。

そこで、なんとなく気になっていたこの記事を思い出して読んでみた。年末頃に運転しながら聞いたNEJM podcastの内容が何となく引っかかっていて、それを検索してきた。介入研究前提の話なので、観察研究は違うだろうけど、参考にはなるだろう。

以下、簡単な要約(意訳あり)。

現在の多施設倫理審査では「金がかかって、不必要に重複が多く、研究のスタートが遅れる」
  • 米国でも多施設臨床研究の倫理審査は、一般的に、各々の参加施設の倫理委員会が行っている。
  • 米国政府は、1991年以降、単一IRB審査やその他の合理化された審査モデルをOKしているが、これらのオプションを利用している研究者はほとんどいない。
  • 国立衛生研究所(NIH)は、2016年6月に、多施設共同研究の単一IRB審査に関する新しいガイダンスを発表。
  • この政策は、多施設共同研究の効率を改善し、開始調査までの時間を短縮し、審査の一貫性を促し、研究者や管理者の負担を軽減し、最終的に研究費を削減することができる。
  • 新しい方針の下で、NIHが資金を提供する多施設研究に参加している米国の施設は、初回および継続倫理申請に単一のIRBを使用しなければならない。
単一IRBの方針によって、研究者には、新たなかつ重要な責任が発生する。
  • 単一IRBの方針を採用する場合、初回申請時それを明記する必要があり、その時点で関連するすべての施設(米国内)は、単一IRBの方針に同意する必要がある。
  • 研究資金が授与される場合、研究者、研究施設よびIRBの役割と責任について記された契約書を、各参加施設とIRBの間で交わしておく必要がある。
  • つまり、主任研究者には「契約」の仕事が増える。
    • 選ばれたIRBが単一IRBとしての役割を果たすことを保証し、参加施設と選ばれたIRBの間のすべての契約とコミュニケーション計画が適切かどうかを確認する必要がある。
    • 実務としては弁護士やIRB管理者がIRB認可協定を交渉し実行するが、研究者はこういった合意のもとでの責任を理解する必要がある。

(なんかこれもややこしいですよね)

パブコメでは、単一IRBの政策に概ね好意的ではあったが、合理化に向けて課題がいくつか出てきた。
  • ひとつめは、単一IRBレビューの費用について。

    • 直接・間接コストの問題。
      • 単一IRB活動のコスト配分に関するNIHの指針によると、単一のIRBが当該研究の実施に資金を提供している機関と提携している場合(例えばA大学が研究資金を持っていて、A大学附属の倫理委員会が単一IRBになる場合とか)、倫理審査費用は「間接経費」として扱われる必要がある。
      • 単一IRBが参加機関と連携していない場合(独立したIRBだったり…あまり例が思いつかないが)、すべての審査活動は直接費用となる。
      • NIHの院内IRBは研究の単一IRBとしては機能するが、資金提供を受けることができない。
    • 多くのIRBは単一IRB審査を行う能力を有するが、情報システムや運営方法を修正しなければならない機関もあるだろう。
      • 2017年5月までに、そのあたりの修正をする必要があるけども、その資金を誰が出すのか?
    • 結果として、アカデミックIRBは、お金の問題が絡んで、単一IRBの方針に乗り気でなくなるかも。
  • 2つめの問題は不確実性に関して。研究機関に所属してないIRBが審査した場合の法的責任や規制の所在などが関与するようだが、これは米国の法律問題が大きく影響している様子。

  • 3つ目の課題はIRB審査過程の効率。
    • 一か所のIRBとだけやりとりすればよいのは明らかにアドバンテージ!
    • ただし、効率を落とすかもしれない2つの条件に注目。
      • 単一IRBセッティングにするための合意に時間がかかるんじゃないか?という点。単一でいいですか?と言っててその交渉をしている間に数か月かかるんじゃないか?という懸念あり。
      • NIHは、local IRBによる二重審査を推奨しないが、禁じてはいないという点。やっぱりlocalで審査する!という施設があっても不思議ではない。
IRB単一化による利益は徐々に実感されるだろう…
  • 利点を確認するためにエビデンスを集めているので、時間ともにこの政策に対する不安は軽減される。
  • 政策は現在進行中で実装されているととらえるべき
  • 政策の結果が分析され、政策の修正が必要となるかも。その他、明確にすべき点が出てくるかも。
  • 最終的には、高品質で効率的な倫理審査が公衆衛生上の利益となるだろう。

個人的な結論

以上、専門ちゃうしちゃんと読んでみんとわからんかなと思って要約してみたものの、やっぱ専門じゃないんでよくわからんかったです。しかし、割と見切り発車やねんな、という感想は持ってしまいます。走らせてみて、出てきた問題をちょっとずつ修正して最適解に持ち込むという考えはいいと思うけれど、お金の問題はどうするのよ?という気はします。IRBの質とかそういうのは、専門外なのであまりよくわからないけれど、たぶん臨床の施設に施設間格差があるように、IRB間格差なんてものもあるんでしょう(大雑把)。IRBを一か所にしても、他の契約とかの仕事が増えるので、結局主任研究者(施設)はある程度忙しいということですね。でも、共同研究施設の担当者さんの仕事は多少減って楽になるかもしれませんので、多少導入を考えてもよいのでは。